獣医師の仕事内容

5種類の獣医師とは

　山田洋次監督の名作・男はつらいよシリーズの1作品の中で、『知床慕情（第38作目）』という北海道を舞台した映画がありますが、その中で三船敏郎氏が演じる初老獣医師・上野順吉が登場します。彼は寄る年波に苦闘し、必死に牛の分娩介助をこなした後、主人公の寅さん（演：渥美清氏）に介抱されつつ、『医者（獣医）ってのは、大変だな。注射や聴診器だけ扱っているのかと思ったが、どんだ重労働だな』というコミカルタッチに描かれたシーンがありましたが、今回はは三船さんが演じていたその獣医師について紹介してゆきたいと思います。

　獣医師とは文字通り、人間以外の獣（動物）を診療する医師の事になります。獣医師系の大学を卒業し、農林水産省が実施している獣医師国家試験を受験・合格し、獣医師免許を修得する事によって、漸く獣医師に成ります。獣医師資格を有していない人が、牛や馬の経済動物および犬猫などの愛玩動物の診療行為は獣医師法によって禁止されています。筆者も牧場に勤務していた頃は、獣医さんに動物たちが大変よくお世話になっていました。畜産業に従事されている方や愛玩動物を飼われている方々は必ず獣医さんにお世話になります。

　獣医師の主な使命は、『畜産業の振興』『動物の診療』『動物の防疫』などが挙げられますいますが、一言に獣医師と言っていますが、その職業は主に以下の5つに分けられます。

①産業動物獣医師
　牛や豚・鶏の経済（畜産）動物を対象に、診療および衛生対策（ワクチン接種など）を行います。主に畜産業が盛んな地方の農業協同組合や家畜保健所（地方公務員）に所属しています。
牛や豚など大型動物を扱うので、昔から産業獣医師は男性の割合が圧倒的でしたが、近年では獣医師の女性割合が増えてきており、産業獣医師数の減少傾向が目立っています。おまけに畜産動物は、都市郊外の田園や山間地域で飼育されている事が殆どなので、田舎に暮らす事に抵抗がある獣医学生が多い事も産業獣医師の不足に拍車をかけていると思われます。因みに、先述の映画内で三船さんが演じていた獣医師役は、正にこの産業獣医になります。

②小動物獣医師
　犬や猫・ハムスターなどの愛玩動物を対象に診療するや衛生対策を行います。一般的にペット医師と呼ばれる先生方になります。ペットが飼われいる市街地や住宅地に、個人開業獣医として拠点を置いておられる方が多いです。
獣医さんとお聞きになれば、こちらのペット動物を診療する獣医さんを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、全国の獣医師資格を有する方々で、小動物獣医の割合は全体の約4割という少な目の数値になっています。余談ですが、筆者が牧場勤務していた折にお世話になっていた獣医さんは、最初小動物開業獣医でしたが、諸事情により産業獣医に転向された方でした。こちらの先生のように②→①に転向される方も中にはいらっしゃいます。

③馬獣医師
　文字通り馬を専門に診療行為などに従事する獣医師になります。主に競走馬・その育成牧場、JRA（日本中央競馬会）の関連施設に拠点を置き、日々の勤務を行っています。JRA関連施設については、滋賀県栗東市にあるトレーニングセンターが有名ですが、此方には馬専門の多くの獣医さんが在籍や移籍を繰り返されています。

④展示動物獣医師
　動物園や水族館などに在籍している展示動物を対象に診療行為に従事する獣医師なります。

⑤実験動物獣医師
　製薬会社や動物試験場で飼育している実験動物（モルモットや兎など）の実験や経過管理を行います。

　以上、獣医師でも主に5種の他にも狩猟動物の監視や野生動物を保護を目的とする林業試験獣医師もいますし、国家公務員として農水省・厚生労働省に所属し、空港や港に設置された「検疫所（厚生労働省管轄）」と「動物検疫所（農水省管轄）」に配属され、防疫に従事している獣医師もいます。また地方公務員として、各都道府県庁で設置されている畜産課や林業課などに在籍している獣医師もいらっしゃいます。正に獣医業も十人十色の世界になります。
　今度は、その十人十色の獣医さんが普段使われる医療器具について紹介させて頂きたいと思います。

酪農と歴史のお話し

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