乳牛の1日の過ごし方

 以前に乳牛のライフサイクル(誕生から分娩)の記事を執筆させて頂きましたが、今回はより細かく焦点を当てて、「乳牛の1日の過ごし方」について紹介してゆきたいと思います。

 

@乳牛の睡眠:我々人間の平均睡眠時間は7時間〜9時間と言われていますが、乳牛の平均睡眠時間は約3時間程度となっています。「食べた後に直ぐに寝ると牛になる」という慣用句がある通り、いつも食後に直ぐ熟睡ているイメージがある乳牛ですが、睡眠時間自体は凄く短いです。また乳牛の睡眠の折は、人間の様に完全に横になって寝るという事は無く、通常は首を曲げて頭を胸に乗っける体勢をとっています。

 

A横臥と反芻:乳牛の睡眠時間は短いですが、横臥(ただ身体を横たえること)時間は非常に長く、1日約10時間以上を横臥時間に費やしています。そして横臥中は、反芻を行う事が多く、それに使われる時間は8時間〜9時間にもなっております。咀嚼回数に換算すると約2万回以上になり、飼料採食中の咀嚼回数も加算すると、「1日の総咀嚼回数は5万回」にも達します。反芻中の乳牛は半覚醒(微睡)状態になっており、一言で言えば、『寝呆け状態で口をモグモグ動かしている様相』です。直にこの時の乳牛を見てみると愛嬌があって面白いのですが、これこそ本当の「食べた後に直ぐに寝ると牛になる」の行為であり、この行為を昔の人々は見て、この慣用句が生まれたと思われます。
 通算の横臥時間は先述の通り1日約10時間ではありますが、横臥継続時間は1時間程度であり、3時間以上継続するのは滅多にありません。成牛は約500kg(ホルスタイン)という大柄であり、寝返りが容易ではないので、肢のうっ血を防ぐために起立して、反対側の肢を下にして再度横臥をします。人間は寝たまま寝返りが可能ですが(乳牛は巨漢であるために)、一度起立しなければ寝返りが出来ないのです。また5分間に1回は肢を動かして、うっ血を防ぎます。

 

B乳牛の採食:起立している時間の多くは飼料の採食に費やされます。飼育者の管理方法によって採食時間は大きく異なりますが、3〜9時間となっています。24時間放牧すると、日の出・日の入の前後に生牧草の採食量が集中し、夜間には採食量が減少、反芻を行います。
 飼育者が飼料を給与する場合、新しい飼料(特に穀物系の濃厚飼料)を給与した直後に採食行動と速度が最高潮となり、約30分経過後は採食速度が落ち、水を飲んだり、小休止をしたりします。採食開始の光景は正に騒々しい物であり、一目散に飼料に喰らい付き、隣の牛と盗食し合う状態になります。

 

C搾乳(乳牛の仕事)時間:泌乳牛は通常1日朝・夕(12時間間隔)の2回搾乳をします。12時間間隔を開けるのが最適ですが、この間隔を飼育者の都合で崩したりしますと、通常の産出乳量の1.3%が減少すると言われています。

 

D乳牛のトイレ:乳牛の1日の排糞回数は15回前後、排尿回数は8回前後になります。kgとLで単位で換算すると、1日排糞量は約20kg〜30kg、排尿量(L)は20Lとなります。また牛は所構わず用足をし、起立をした所に排泄をする習性があります。

 

以上、乳牛の1日の主な生活スタイルについてですが、解り易く、上記@〜Dの其々の行動を構成比で表してみました。

 

@睡眠:8%
A横臥反芻:30%
B採食:29%
C搾乳:8%
D排泄、起立(歩行を含む)及び起立反芻:17%
(参考データ:新しい酪農技術の基礎と実践・基礎編より)

 

上記の数値を見ての通り、乳牛の1日の殆どはは「採食」と「横臥反芻」で費やされている事がわかります。「食べて、それを戻して咀嚼する」という行為を日々繰り返す事によって、草食のみであれ程の丈夫で大きな身体となり、牛乳を出してくれるのです。

関連ページ

こんなにたくさんいる乳牛の種類
牛の4つの胃袋、実はその内3つは胃袋ではなかった?
牛はなぜ、涼しい場所で飼われているか
乳牛のエサの種類と食事量
牛乳ができるまで
乳牛の口の中の正体
乳牛のライフサイクル(誕生〜分娩まで)
乳牛にも産休がある?
乳牛が患う病気とは
酪農に使われる道具とは
乳牛の乳房の中身
牛乳はこの様にして搾られる
乳牛の生活とその社会
乳牛の体重測定・BCS
乳牛にも整形手術はある
獣医師の仕事内容
獣医師が使う7つの道具
乳牛の管理システム・牛群検定とは
乳牛の肉利用について
乳牛のマニュア(ふん)スコアとは?
牛乳の価値を決める乳質とは?
牛の漢方医学のハンドブック「牛書」とは?
「牛書」から診る牛の起立不可の病気とその対策
「牛書」から見る病気26番「ツクヒ」とは?
良質な牛乳が備える条件
異常風味がする生乳の原因と対策
牛にも鍼灸治療がある!
乳牛の血統登録
乳牛にも原戸籍と住民票がある
ホルスタインの起源
乳牛を脅かす伝染病とは?
牛の情報管理「牛トレーサビリティ法」とは?
乳牛の伝染病名とその症状
人にも感染する家畜伝染症がある
ジャージー牛の成り立ちを辿る
搾乳作業の変移
ミルカー(搾乳機)の歴史とその技術進化
パイプライン搾乳の登場
様々なタイプがある搾乳方法(パーラー)
様々なミルキングパーラーの種類
日本での搾乳機器進化の道程
高度な搾乳技術の誕生・搾乳ロボットなど
仔牛にも代用乳がある
牛の居住区・牛舎の種類と特徴
仔牛専用のお家・カーフハッチとは?
牛を放牧(放し飼い)をする理由とは?