「牛トレーサビリティ法」とは?

 前回の記事「乳牛にも原戸籍と住民票がある」内で、牛個体の「戸籍は血統登録書」に相当し、住民票に類似するのは10桁の数字から成る「個体識別番号」であると紹介させて頂きました。今記事では、その個体識別番号を基盤としている牛に関する個体および流通情報管理の特別措置法、『牛トレーサビリティ法』について少し紹介させて頂きたいと思っております。

 

 トレーサビリティを英訳すると「traceability」となりますが、traceの動詞和訳は「調べ出す・辿る」であり、後に付いているabilityの本来の和訳意味では「能力」ですが、この場合の意味は、「〜に適する(接尾辞)」が妥当ですので、『traceability=追跡可能』となります。
 トレーサビリティという用語は、流通業界では一般的な言語であり、Wikipediaの言を拝借してトレーサビリティの主旨を述べさせて頂くと、『物品の流通経路を生産段階から最終消費段階あるいは廃棄段階まで追跡が可能な状態』であります。
 最も我々が身近で、上記のトレーサビリティを活用している好例として挙げられるのが、宅配便の追跡番号サビースではないでしょうか。毎日気が遠くなるほどの大量の荷物が集配を正確に管理されるために、問合せ番号(追跡番号)が振り分けられており、それを辿って(trace)してゆけば、配送元・発送先などの詳細が直ぐに判明するという便利なシステムです。この便利なシステムを牛(牛肉)に活用されている措置法が、『牛トレーサビリティ法』になります。

 

 先程から何度か登場してきている用語『牛トレーサビリティ法』というのは、実は農水省や国交省と同様な通称名であり、正式名称は『牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法』という、途轍もなく長く、読み書きするには泣かされる正式名称でございます。

BSE問題と牛トレーサビリティ法

 『牛トレーサビリティ法』が誕生した経緯ですが、2000年初頭に、英米・日本で発生した「牛海綿状脳症(通称:狂牛病・BSE)」問題が発端になり、人々の牛肉に対する信頼感(安全性)が大いに揺らぎ、牛肉の消費が減退、食品・外食産業が大きな打撃を受けてしまい、遂には経済社会問題にまで発展しました。
 人々の牛肉信頼と消費量の回復をさせるための対策として、牛1個体(牛肉)ごとの個体識別番号に拠って、所在や流通履歴などを迅速に検索および伝達できるシステムが必要不可欠になり、その機運が高まる中に2003年(平成15)年12月1日に、『牛トレーサビリティ法』が制定され、牛肉の生産・流通段階の措置が施行されるようになり、現在に至っています。
 因みに、2017(平成29)年2月末に、富山県氷見市所在の食肉業者の氷見牛肉の産地偽装問題が話題になりましたが、その業者では、北陸農政局が義務付けている個体識別番号のラベルを貼り付けて保存していなかったために、この問題の発端になりました。産地偽装の真贋はわかりかねますが、牛肉の産地を示す個体識別番号を非提示するという行為は、BSE問題以来、人々の牛肉に対する信頼回復策の一環として施行された牛トレーサビリティ法に明らかに違反していると言えるでしょう。今後は、国内でこの様な問題が再発する事が無い事を、1人の牛肉消費者である筆者は祈るばかりであります。
 次回は、『牛トレーサビリティ制度の仕組み(生産者〜屠畜〜食肉卸売業〜販売業者・特定料理業者〜消費者の流れ)』を紹介させて頂きたいと思っております。