ヒツジの先祖

 現在では、衣類の原料であるウールなどを人間に提供してくれる世界各地の羊ですが、その出生地は何処であるか、皆様察しが付きますか?いつも多量で暑そうな羊毛を所持しており、見るからに暑そうであるから、羊たちが初めて誕生したのは厳寒な北方地方と思われる事があります。しかし実は真逆の高温乾燥地帯である西アジア(イラクやパキスタン)地方が出生地なのです。

 

 紀元前1万年頃になると氷河期が終わり、それまで厳寒地であった場所が温暖の気候に恵まれてくるという現象が起こりました。これと同時に森林地帯が徐々に後退してゆき、それに代わって砂漠・乾燥地帯、草原地帯が拡大してゆきました。森林地帯が減退した事によって、そこでの狩猟が困難になったので、乾燥地帯で生息していた野生の羊や山羊を獲物対象とする様になりました。
 野生の羊たちは、飼料(草地)などを求めて移動しますので、それに憑いて行く様に人々も移動するようになりました。当初の人々は、野生の羊たちを只ひたすら狩って肉(食べ物)を得るという事しか思い付きませんでしたが、いつしか、『いつも捕まえる事が出来ない野生の羊を狩ってゆくより、羊を捕獲→馴致→繁殖させて、肉を得てゆく方が良い』という事に気付きました。これが家畜としての羊の始まりと言われ、このスタイルが具現化されたのが、有名なモンゴルの様に、羊のための草原を求め移動してゆく遊牧民族です。「狩り時代」から『飼う時代』に変貌して行ったのです。

 

 野生の羊が家畜として飼い馴らされたのは、紀元前7000〜同6000年であり、広大な西アジア・世界5大文明の1つで有名なメソポタミヤ文明の発祥地・「レバント地方(トルコやレバノンなど数カ国を含む)」と伝わっています。事実タウルス・ザグロスという2山脈の丘陵地帯周辺の遺跡調査で、家畜化された羊骨が多数出土しています。また同時期の別地域では、インド中東部にあるマハーガラという遺跡でも畜舎や羊・山羊の蹄や骨の遺跡が発見されています。同時期に広範囲で野生の羊が、捕獲・飼い馴らされて行った理由は、『確保しやすく、群居習性があるので集団で飼育できるので、効率が良かった』ことです。

 

 狩猟時代から人々の手によって捕獲→馴致→繁殖と家畜化された野生羊たちは、ヨーロッパからモンゴルまで及ぶ広大なユーラシア大陸に生息していました。それらの野生羊の原種と言われているのが、「アジアムフロン」「西洋ムフロン」「ウリアル」「アルガリ」の4種類と言うわれています。この4種が複雑に関係していて、今日の羊の原形が出来上がって来た『多源説』が有力となっています。敢えて野生羊の分布を述べさせて頂くと、ウリアル系を祖とする羊が基本的に多く分布していると言われ、英国のマン島などはムフロン系の羊が主流を占めている説があります。(英国考古学者・ゾイナー博士説)
 兎に角にも先述の様に、4種が人間の手によって飼われ、互い交配繁殖、時には近親交配など行い、より優れた形質や特徴をもった品種が作成・改良が徐々に行われつつ、世界各地への移動を繰り返し、今日の羊の姿に近付いていったのは確かです。

 

★羊の先祖たち

(ムフロンの一例)

 


(ウリアルの一例)

 


(アルガリの一例)